「着いたぁ〜・・・」


 ようやく辿り着いた清香の借家の前、
 咲夜は魂魄抜けるが如く、疲労の大息を吐く。

「ですね・・・」


 清香も右に倣えとばかり、
 疲労をありありと見せ、息をつく。


「あ〜・・・ざんぶとまあ熱い湯に浸かりてぇな〜・・・」

 咲夜は地にしゃがみ込みながら、熱い湯に思いは馳せ、
 馳せたかと思ったところ唐突に、

「行くか!湯屋!」

 とのお誘い。


「行きません!駄目ですよ、それよりまず傷をどうにかしないと・・・」

 出頭こそ声張ったものの、すぐに清香の声は萎みゆく。
 自分の惰弱さこそが咲夜を傷つけたも同然だからである。


「いますぐ湯屋に行くのは駄目ですよ。
 今日のところは身体を拭うだけで我慢してください」

「そんなこと言っても医者ももう店仕舞いの時間だしな〜
 ・・・やっぱり風呂じゃないかな〜・・・
 いや、それ以外にもう道はねえぜ〜・・・」

「い、いや、ちょっと待ってください・・・」

 傷の原因もあり、今ひとつ強く出られない清香はあたふたと
咲夜の鎮火を願うばかりといった体である。
 
 時刻は湯屋が閉まる暮れ十刻まで余裕がある。
 そして近所に一軒の湯屋がある。
 行こうと思えば行けてしまうのである。
 だから清香はますます焦るのである。

「いや、ここはもう湯屋だろ。それしかねえって
 風呂入っときゃとりあえず間違いないって!
 清香も一緒に行こうぜ!
 わっちらぁ、もう風呂に入るしかねえんだよ!」

 俄然元気になる咲夜、清香を引きずり、歩き出す。

「だめだめ、だめですって!
 傷がもう少し塞がってから・・・」

 自らを引きずる腕を振り払えぬ不格好ながらも
 、清香はなんとか咲夜を止めようとする。

 すると咲夜の歩みは止まり、
 やれよかった、気持ちが通じたと清香が安堵したところ、
 咲夜はぐるり振り返り、


「湯屋で番頭と握手!」


 などと謎の決め台詞を決め、一人でにやと御満悦。

「なに言ってるんですか?!ああ、もう、こんな時に三平がいれば・・・」

 清香が困惑し、
 呟くと、
 如何なる加護が働いたか、

「はい、なんでしょうか」

 と先の辻から三平の顔がにゅっと現れる。

「よし、来た!」

 すると手札が揃ったかのよう
 清香は声を張り、さっきまでの弱々しさはどこへやら、
 咲夜をひきずり、一気に借家へと連れていく。









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