白命は巨木の枝の上、木々の濃緑に紛れ、二人のかぐや候補をみていた。

清香と咲夜の立ち合い。
一挙手一挙動見逃すことなく眼下に収め、その情報を脳に送る。
すぐに幾つもの対応策がつくられ、実際的な圧倒手段を提示しながら組み上がっていく。

 観察し分析し完全な攻略を図る。

 しかしそれは、いわば半無意識的に成される彼女の癖であって、それに意識を囚われることはない。

 二人の実力は大体思っていた通りだった。
いや、咲夜については少々見くびっていたかもしれない。すぐに修正する。

清香については、先の立ち合いに於いては予測の範疇の動きであったが、まだまだ未知数なところが多く、現在の情報量では到底判断は付け難い。

 が、筋は良い。
白命は思う。当たり前のことだ。あの人の娘なら当然であろう、と。

 龍切の炎を扱うところを見れなかったのは少々残念なことだが、無駄足にするわけにもいかない。


 白命は地に降り立ち、潜み、控えていた男に確認する。

犬奴彦(いぬひこ)殿。よいか?」

 低く鋭い、向けられた相手にしか聞き取れない声を通す。明らかに修練を必要とする特殊な発声だった。そしてそれは技能の塊といった雰囲気の彼女にひどく似合っていた。

 犬奴彦と呼ばれた背の高い壮年の男は白命の言葉を受け、自然との同化を解き、現れる。存在を密に殺して音無く動く姿は紛れもない忍びの強者である。まるであらゆる生殺与奪の権を与えられているかのような透徹した目を白命に向けると、彼は声無く頷き、行動を開始した。
彼の後にはいつの間にか四人の男が集まり、驚くほど静かに木々の隙間を縫い、駆けていく。

 白命は彼らの遥か後方、視界になんとか犬奴彦達が収まる距離を保ちながら自らも移動を開始する。そして胸中、ひとりごちる。

(では、次の立ち合いには生死を賭けてもらおう。下らない矜持にこだわれば嬲り殺されるぞ)

 まるで虫の生き死にでも眺めるよう、冷淡に胸中で呟く。












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