(駄目だ。このままでは見つかるな)

 両腕を粉砕された男を背に担ぎ、しかしその負担はまったく感じさせず、
 移動しながら犬奴彦は白命に声を通した。


(そうですね。おそらくこの庭園に巡廻の穴が空いたことを不審に感じたのかもしれま せん。通常の見廻りに比べて速度が速すぎる)

 気配を読み、白命は同意する。

 もちろん自分と犬奴彦だけならどうとでもなるが、
 手負い四人が一緒ではそううまくはいかない。

 常切の丸薬は確かに素晴らしい効能を示す。
 悶絶するような
疼痛(とうつう)もほとんど打ち消してしまい、
 それに伴う過剰薬物による依存性や毒性も皆無に等しい。

 しかし当たり前だが、損傷そのものを修復するわけではない。
 奔流のように流し込まれる痛みを遮断するだけの一時的な麻酔に過ぎない。
 身体とは総合機関であり、損傷があればその分、機能は落ちる。
 手負いの四人。動きが鈍いのは当然である

 ここで一旦気配を断ち、
 存在を周囲の世界に同化させてしまえば後方に迫る隠密は凌げるであろう。
 しかし相手は情報収集を主に活動するものである。
 高速移動しながらも有益と思われる情報は逃さぬはず。

 町民が清香と咲夜が連れ立って歩いていた話をしていたらどうだ。
 かぐや候補はいまや時の人。目撃者は多数いる。これを口に出す者がいても不思議で はない。そしてそれを聞き逃すような隠密ではない。
 一宝庭園へ急ぐはず。そこで気配を消した白命達を見落としはしても、傷を負った清 香達を発見する可能性はあまりに高い。

 そうすればどうだ。
 ここまでくれば別段高い知能を必要とはしない。
 かぐや候補を襲った者がいると気付く。すぐにあらゆる人員を投入し、白命達の一斉 捜索が始まるだろう。そうなってしまえば事だ。


 ではどうするか。


 決まっている。
 その勘の良い隠密が他に異変を伝える前に完全に抹消すればいいのだ。
 もとより白命はそれも考慮に入れている。

 隠密廻りを痕跡を残さずに消し去る。

 この行為自体が白命という人物に疑惑を照射することになるかもしれない。
 忍を音無く制する者は忍でしかない。

 が、それでも構わなかった。

 当初の通り、ここでは決定的な証拠さえ残さねばいい。
 何故なら、この後、かぐやまで幕府に咎められるような行為を行う予定はない。監視 したければすればいい。無駄に神経を擦って疲弊しろ。御苦労な事だ。


(処理します)



 そして白命は淡と一言、身を翻し、一人密林に消える

 犬彦は返事もせず四人の忍を連れ、ただ疾く退路を行く。












 1P                                   


inserted by FC2 system